アンカースクリューを用いた歯列矯正の効果と注意点
アンカースクリューを使った矯正治療は、歯列矯正において非常に効果的な治療手段の一つです。
従来の矯正治療では、困難だった治療を比較的容易に行えることが出来るようになりました。
このページでは、その概要と役割や特徴を詳しく解説します。
【目次】
1.アンカースクリューの概要
2.歯列矯正におけるアンカースクリューの役割
歯の移動の安定化
治療の効率化
3.アンカースクリューの特徴
メリット
(非侵襲性/柔軟な運用法)
注意点(脱落のリスク)
(術後の安静期間/感染のリスク/負担過重のリスク)
4.アンカースクリューを用いる歯列矯正
パターン1. 前歯の後方移動
パターン2. 歯列全体の後方移動(上顎のみ)
パターン3. 歯列全体の後方移動(下顎のみ)
パターン4. 歯列全体の後方移動(上下顎共に)
パターン5. 前歯の圧下
パターン6. 上顎歯列の圧下
5.アンカースクリュー関連でよくある質問
Q1. 抜歯症例ではアンカースクリューを使った方が、治療が早く終わるのですか?
Q2. 今の時代、矯正するときにアンカースクリューは必須なのですか?
Q3. アンカースクリューを植立する処置(手術)は痛いですか?
Q4. 治療中などにアンカースクリューが抜けたりしませんか?
Q5. アンカースクリューを植えた後、歯磨きが悪かったらどうなりますか?
Q6. 治療後、アンカースクリューはどうなりますか?
Q7. アンカースクリューのリスクはありますか?
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アンカースクリューの概要
アンカースクリューは小型のチタン製のネジで、歯科矯正治療において、歯の移動を安定させるための固定源として使用されます。
ホントに、「小さいネジ」と言って良いモノであり、大きさは直径1.6mm~2mmで、長さは6mm~10mm程度です。

手術前に滅菌して準備します
これを歯肉から直接歯槽骨に植立させることで、矯正の力を特定の方向に効率的に伝えることが出来ます。
この背景には、歯列矯正というものが通常、歯と歯の押し合い&引っ張り合いになるため、ある歯を押せば(引けば)力を入れる支えとなった歯が押し返される(引かれる)という実態があります。 いわゆる作用と反作用ですね。
通常の歯列矯正では「力」を入れるときに、この作用と反作用をどうコントロールするかが非常に重要になります。
ところが、このアンカースクリューは力を加えても動かないので、作用と反作用を無視して、特定の歯を特定の方向に動かすことが出来るのです。
歯列矯正におけるアンカースクリューの役割
歯の移動の安定化
アンカースクリューを使用することで、他の歯に依存せずに特定の歯を特定の向きに移動させることが出来ます。
治療の効率化
アンカースクリューを用いることで、従来の歯列矯正では難しかった治療を、比較的容易に、時にはより短期間に行うことが出来るようにもなりました。
アンカースクリューの特徴
ここでは、アンカースクリューの持つメリットと、安心して使うための注意点を述べましょう。
メリット
初期の頃のアンカースクリューは、骨折治療用のプレートとネジを流用して使われていました。 そのため、処置に際して外科的な侵襲が非常に大きくて大変でした。 モノが大きいため治療の目的によって埋める場所を変えるなどの柔軟な運用も難しく、有用ではあるものの、限定的な使い方でした。
しかし、今のアンカースクリューは小型化され、さらに有用で使いやすくなりました。
非侵襲性
アンカースクリューはとても小さいモノです。
(直径1.6mm~2mmで、長さは6mm~10mm程度)
一般的には、局所麻酔下で、これを歯肉の上から直接ねじ込んで(植立して)いきます。 そのため、処置(小手術)が比較的容易で、回復も早いです。 基本的に処置に伴う痛みはほとんどありません。

柔軟な運用法
様々な矯正治療の目的に応じて、アンカースクリューを植立する部位を調整することが出来ます。
一般的には奥歯の外側に植立しますが、状況と目的に応じて奥歯の内側や上顎の内側、前歯の外側や智歯を抜いた跡などにも使用されます。
注意点(脱落のリスク)
アンカースクリューの処置自体は容易ですが、脱落のリスクを抑えるために術後の経過に注意が必要です。
術後の安静期間
アンカースクリューは処置後に痛みが無いからと直ぐに使えるわけではありません。
一般に、4週~8週の間を空けて、周囲の骨と馴染んでから落ち着いてから治療に使用することを推奨されています。 早期使用は脱落のリスクを高めます。
特に年齢の若い方ほど、骨が軟らかいので安静期間を空けることが望ましいと考えられています。
感染のリスク
処置後、アンカースクリューの周りの衛生状態が悪いと口腔内細菌による感染の可能性があるため、良好な口腔衛生を維持し、感染を防ぐことが重要です。
衛生状態(歯磨き)が悪く感染すると、いわゆる歯槽膿漏と同じ状態になるため、アンカースクリューの脱落につながります。
負担過重のリスク
食事中に強い力が加わると、アンカースクリューが脱落する恐れがあります。特に固い食物を食べる際には注意が必要です。
矯正治療において様々な強さや持続的な「力」を加えても通常問題なく耐えることが出来ます。
しかし、食事中に強い力が加わると、例えばお肉などがグッグッと間欠的にアンカースクリューに当たり力が加わると、負担に耐え切れずやはりアンカースクリューの脱落に繋がります。
固いものや、噛み応えがあるものには、特に注意が必要です。
アンカースクリューを用いる歯列矯正
個別の症例については、
『口ゴボの原因と治療【口ごぼについて詳しく解説】』
『出っ歯(上顎前突)の原因と治療法【出っ歯について詳しく解説】』
『ガミースマイルの原因と治療【ガミースマイルについて詳しく解説】』
や、ブログにアップしている様々な治療例を参照してください。
前歯の後方移動
前歯の突出(口元の突出)が気になる患者さんのような抜歯症例において、特に有効です。
前歯を最大限に引っ込めるために、アンカースクリューから後方へ引っ張る力を加えることで、抜歯により得られたスペースを前歯を引っ込めることだけに使うことが出来ます。

歯列全体の後方移動
抜歯で得られたスペース分をしっかり引っ込めたのだけれど、もっと後方へ引っ込めたい!というケースです。 これには大きく三つのパターンがあります。
上の歯列全体を後方へ移動
元々出っ歯の患者さんで、前歯を出来るだけ引っ込めたのだけれど、まだ出っ歯が残る場合があります。 そういう場合に、上の歯列全体を後方へ押すことで、前歯を引っ込めて、噛み合わせをより良く確立することが出来ます。

下の歯列全体を後方へ移動
元の歯並びの関係で、上の歯列には引っ込めるスペースが残っているのに、下の歯列には全く残っていない場合があります。 そういう場合に、下の歯列全体を後方へ押すことで、上下の前歯を引っ込めて、噛み合わせや口元をより良く確立することが出来ます。

上下の歯列を後方へ移動
噛み合わせにも問題が無く、抜歯で得られたスペース分をしっかりと引っ込めたのだけど、もっと歯並びを後方へ引っ込めたい!という場合です。 そういう場合に、上下の歯列全体を後方へ押すことで、前歯を引っ込めて、口元を更に引っ込めて「口ごぼ」の更なる改善を図ることが出来ます。
前歯の圧下
ガミースマイルがあり、前歯の噛み込みが深い場合、上の前歯を圧下することで、改善することが出来ます。
また、話したり笑ったりするときに、下の前歯の露出がひどく目立つ方がおられます。 そのようなときに、下の前歯を圧下することで改善することも可能です。

上顎歯列の圧下
ガミースマイルがあり、前歯の噛み込みが浅い場合、上の歯列全体(前歯も奥歯も!)を圧下することで、改善することが出来ます。
また変速的ですが、上の歯列が斜めになっているせいで、笑うと顔が傾いて見えると気にしている方がいます。 その場合、下がっている片側のみを圧下させて改善することも出来ます。


アンカースクリュー関連でよくある質問
抜歯症例ではアンカースクリューを使った方が、治療が早く終わるのですか?
アンカースクリューは魔法の道具ではありません。
アンカースクリューを使うことと治療の進み具合は、全く別の話です。
使ったから早く進むわけでもなく、使わないから遅くなるわけでもありません。
今の時代、矯正するときにアンカースクリューは必須なのですか?
アンカースクリューは歯列矯正における治療器具の一つです。
治療計画に基づいて「このような歯の動きをさせて、このような結果を得たい」となった時に、その動きが従来の歯列矯正では難しければ、「それならばココにアンカースクリューを植立して、この歯に対して、この向きに力を入れて動かそう」という目的のために使います。
ですから、必要が無ければ使うことはありません。
アンカースクリューを植立する処置(手術)は痛いですか?
アンカースクリューの植立は通常、局所麻酔を使用して行われるため、痛みは最小限に抑えられます。
植立後は軽い不快感や腫れが生じることがありますが、数日で落ち着きます。
痛くないというと語弊がありますが、少なくとも、皆さんが想像されているような酷い痛みはありません。 一般的に、抜歯よりもはるかに痛みがありません。
ただし、治療の目的や植立する場所の関係で、切開して粘膜下に行うことがあります。
その場合には、ちょっと痛いかもしれません。 それでも、抜歯レベルの痛みであることが普通です。
治療中などにアンカースクリューが抜けたりしませんか?
残念ながら、治療中の脱落はあり得ます。
手術後、口腔衛生状態も良好に保ち無事に安静期間を経ても、アンカースクリューを使用している間の歯磨きが悪く口腔衛生状態が悪化すると、口腔内細菌の感染により脱落することがあります。
また、患者さんの骨質も関係しますので、最初は問題なく使えていても、時間の経過とともに力の負担に耐え切れず脱落することもあります。
アンカースクリューを植えた後、歯磨きが悪かったらどうなりますか?
先の質問でも答えましたが、アンカースクリューが脱落することがあります。
また、脱落しないまでも、周囲の歯肉が炎症により腫れてしまい、アンカースクリューや付属の装置ごと腫れて増殖した歯肉に埋まってしまうことがあります。 そうなると、歯肉を切開して処置をしなければいけなくなります。
治療後、アンカースクリューはどうなりますか?
アンカースクリューは矯正治療が完了した後、歯科医師が取り外します。 取り外しも簡単で、通常は局所麻酔なしで行われます。
除去した後の歯肉は、いわゆる「穴」が開いた傷口の状態です。 しばらくは、よくうがいをして清潔に保つことが大切です。
アンカースクリューのリスクはありますか?
ほとんどの患者には問題はありませんが、感染や骨の反応が起こることがあります。 これらは稀であり、通常は適切な管理で予防できます。
アンカースクリューは歯と歯の間などに埋めて、歯に直接ぶつかってダメージを与えないように、レントゲンにて事前の確認及び事後の確認をしています。 しかし、狭い空間であることに違いはありませんので、何らかの炎症が波及することはあり得ます。
また、アンカースクリューは生体親和性の良いチタン合金でできています。 金属アレルギーなどの異常が起きることもまずありません。 ちなみに、いわゆる「インプラント(人工歯根)」も同じチタン合金でできています。
しかし、人の体はいろいろであり、全てが分かっているわけでもありません。
処置後に何か異常や心配があれば、遠慮なく歯科医師に相談してください。