審美歯科の基礎知識
審美歯科の基礎
健康な歯
歯ー歯肉複合体
修復物は生体と調和している必要があります。
即ち、生物学的要因を常に考えることが大切です。
健康な口腔内において、歯と歯槽骨と歯肉の3者の関係は、生物学的幅径という概念で捉えられている。
歯槽骨よりも上で先ず歯と歯肉は結合組織性付着を起こし、次に上皮性付着でくっついています。
結合組織性付着の幅は1.07mmで、上皮性付着の幅は0.97mmであるとされている。
両者の合計2.04mmを生物学的幅径と言います。
人の体が恒常性を維持するために必要な空間でもあります。
従って、審美修復物などが、この生物学的幅径にくい込むと、歯の周囲に慢性的な炎症が生じるようになります。
治療において、原則として侵してはいけない領域となるわけです。
しかし、現実には古い修復物(さし歯)を外してみたら、既に歯肉の下、深くまで削られておりどうしようもない、ということがよくあるのも事実です。
そういう場合は、追求するのであれば、歯周形成外科を行ったり、部分矯正で挺出を図ったりして、生物学的幅径を確保するようにします。
但し、手間と時間はかかりますし、歯並びの状況によってははなはだ困難であることもあります。
審美的な修復物
エマージェンシー・プロファイル
審美修復物(セラミック)を歯にセットする時、自分の歯とさし歯の境目の移行形態はとても重要です。
この移行形態のことをエマージェンシー・プロファイルと言います。
境目の移行は、滑らかで連続的に、緩やかなカーブを持って移行することが求められています。
この部分に、引っ掛かりなどがあり、移行がスムーズでないと、歯肉が炎症を起こしやすくなります。
当たり前ですが、元々の修復物(さし歯)が合っていなくて、段差があるなどは論外です。
審美的に見える歯の形態
上の正面の前歯(中切歯)は歯列の構成要素の中でもっとも目立つことが大切です。
漫画の歯と異なり、歯の大きさは1本1本違います。
大きさを単純に比較するならば、大きい前歯、小さい前歯、大きい犬歯と並ぶことになりますが、正面からお口を見て見える歯の大きさで考えるならば、歯列はカーブを描いていますから、そうはなりません。
正面の歯はその全てが見えますが、奥に行くに伴い正中よりの一部(近心側)が見えるようになります。
審美的な前歯の見え方は、
中切歯 : 側切歯 : 犬歯 = 1.618 : 1.0 : 0.618の黄金比を保って、左右対称であることです。
前歯の歯軸は、一般に中切歯より犬歯の方が近心傾斜が強く、末広がりにバランスよく並んでいます。
そして、犬歯から臼歯(奥歯)にかけての歯軸は、正中線をはさんで線対称となります。結果として、歯の頬側面(外側の歯面)の傾斜が連続したグラディエーションを示します。
口唇線と歯の関係
スマイルライン
上の前歯(犬歯から犬歯)の切縁を結ぶ線が、スマイルライン(下口唇線)に沿って下に凸なカーブを描くと、より女性的なイメージを強調します。
逆に直線的になるほど男性的なイメージが出てきます。口唇と歯の見え具合も大事なポイントです。
談笑中に明るく白い歯がこぼれるように見えるのは、若さと躍動感の象徴であるとイメージされます。
実際に若い人ほど前歯の露出量が多くなる傾向があります。
(若年者で3.37mm 中年者で1.20mm )
また、お口を楽にした状態(安静位)においては、女性の方がよく歯が見える。
(女性で3.40mm 男性で1.91mm )
歯ぐきの見え方(ガミースマイル)
歯ぐきの見え方の分類
笑ったり、談笑したりする時に、上の前歯が左右同じぐらいに露出して見えることも大事です。
人の顔は完全な左右対称ではないため、顎骨や軟組織の成長の具合により必ずしも左右が同じに見えるとは限りません。
しかし、人の眼は多少の違いは許容して、対象であると認識します。
ところが、そのズレが著しく大きいと、『違う! 』 と認識してしまうのです。
審美歯科における総合評価
顔面と口唇の関係を評価した上で、上の前歯の先端(切縁)と奥歯の外側の先端(頬側咬頭頂)を結ぶ仮想線(facial cusp line)を想定して、口唇と歯の関係を評価します。
① 上の前歯の切縁は瞳孔線や下口唇と水平関係にあるか?
② 微笑んだ時に上の前歯の切縁は下口唇が作るスマイルラインに沿っているか?
③ 奥歯に行くに伴って歯の見える状態が漸減しているか?
④ Buccal corridor (微笑んだ時に出来る口角と歯との間の暗く見える空間)が存在するか?
⑤ 以上の4項目が顔面正中を境に左右対称であるか?
顔面の正中線 と 上の歯列の正中線 と 下の歯列の正中線 の3者は一致していることが一つの理想ではあります。
しかし、一致せずに多少のズレがあっても、三つの正中線が平行であれば、人の顔は完全な左右対称ではないので、 審美歯科的には問題ありません。
審美歯科材料
コンポジットレジン
基材となるマトリックス(例えば、Bis-GMA)に、添加剤となるフィラーを配合してあります。
添加するフィラーの種類により、大きく4つに分類されます。
SFR型コンポジット
有機質複合材からなるサブミクロン球状フィラーを配合
ハイブリッド・コンポジットレジン
無機質のガラスからなるマイクロフィラーを配合
ハイブリッド型コンポジット
有機質複合材からなるナノフィラー&無機質のガラスフィラーを配合
セミハイブリッド型コンポジット
細かい無機質のガラスフィラーを高密度に配合
奥歯の咬合面の治療には、耐摩耗性の高いセミハイブリッド型コンポジットを用います。
機械的性質の比較
上記のように、コンポジットレジンは非常に優れた機械的性質を持っているのです。
また、非常に操作性が高く、安価であることも特徴です。
ハイブリッド・セラミックス
基材となるマトリックスにモノマーとマイクロフィラーの複合体を用いて、無機質のガラスフィラーを90wt%以上配合した物です。
この複合マトリックスにより、従来のコンポジットレジンよりも機械的強度を上げています。
機械的性質の比較
操作性が簡単で、比較的に耐久性があるため、便利な材料です。
セラミックス
K2O+X-Al2O3-SiO2の複合体で、主に、長石系とアルミナス系の二つに分かれます。
長石系
50~70%がSiO2(シリカ)で、10~17%がAl2O3、7~10%がK2O、残りが微量添加物
アルミナス系
26~34%がSiO2(シリカ)で、56~62%がAl2O3、4~18%がK2O、残りが微量添加物
これらの陶材を歯の形に盛り上げて、1000度以上の高温で何度か焼き上げて作ります。
機械的性質の比較
機械的な強度は十分にあるのですが、衝撃に弱いという弱点があります。
(その分、歯牙の削除量が増えます。)
また、化学的にも非常に安定した材料で、審美的な安定性を持っています。
しかし、操作性が難しく、費用的に効果であるという弱点があります。
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**審美歯科のエトセトラ**
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